つくるのブログ 小学校受験の道しるべ

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元お受験講師が小学校受験について書きつづります

【幼児教室の体験談】小学校受験をする前に、もう一度考えてみて欲しいこと。



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私が幼児教室で出会ったお子さまは
数えきれないほどいます。

その中でも特に印象に残っているお子さま(仮に太郎くんと呼びます)の話をしたいと思います。

私が太郎くんに会ったのは、年長クラスの5月くらいだったでしょうか。
幼児教室の講師になって間もない
ベテラン先生のもと、年長クラスの補佐に従事していた頃です。

太郎君は、年中さんの時から個別指導の先生の元、小学校受験の準備をしていたのですが、

お母さまが「不安なことがある」ということで、たくさん人数のいる教室に移ってきたそうです。

太郎君は、プリントがとてもよくできました。

スピードもあり、理解力も集中力も高かったので、

とても驚いた記憶があります。すぐに試験を受けても問題ないほどの習熟度でした。

運動も問題なくこなしました。巧緻性もよくできました。

「何が不安なのかしら?」と、私は不思議でなりませんでした。

でも、それは、制作あそびの時に起きました。

「はい。もうおしまいにしましょう。」

時間内に仕上がらなくても、終わりといったら、手を止めなくては、いけません。

しかし、太郎君は、手を止めることはしませんでした。

どうしても、完成させたい!と言って、作品を仕上げることにこだわりました。

どんなに言って聞かせても、絶対にやめようとしません。

私たちは困り果てて、今日はとりあえず、初めての授業なので、本人の様子をみてみましょう。

ということになりました。

その日は私が太郎君を見守る担当となりました。

他のお子さまが運動遊びに移行しても、黙々と制作に取り組む太郎くんに

最初は「困ったな」と困惑しました。


しかし、時間が経つにつれ、私は太郎くんにくぎ付けになりました。

その時、動く車を作る課題だったのですが、

太郎くんの作った動く車は、今まで見たどの作品よりも

独創的で、かっこよくて、すばらしい出来栄えだったからです。


太郎君は「できた!!」と言って、

顔を上げて、嬉しそうに車を見せてくれました。

「すてきだね!とってもかっこいいね!」

と、思わず私も興奮して、心が震えるほど感動した記憶があります。


しかし、私はベテラン先生にその後、注意を受けました。

このままじゃ、あの子は合格できません。

「やめてください」と言われたら、途中であっても手を止めるように、練習しなくてはいけない。

だから、あなたが、完成した車をあんなに褒めてはいけません。

時間をかけて、素晴らしいものを作りあげることよりも、指示を聞けることの方が大事なんです。

もうあの子には時間が無い。じっくり取り組めたことを褒める時期ではありません。

決して褒めるポイントを間違えないでください。

あなたには、まだ難しいので、太郎君は別の先生に補佐してもらいます。


ショックではありましたが、「小学校受験に合格する」ということを改めて考えさせられる出来事でした。


それからも太郎君は、絵画あそびや制作あそびになると夢中になり、

自分が納得するまで完成させると言って、指示が聞けませんでした。

男性の先生に注意されても、泣いても、いじけても、手を止めません。

どうしても完成させることにこだわり続けました。

夏休み講習にはいってから

少しずつ手を止めることができるようになりました。

私たち講師は、手を止めることができたときに、たくさん褒めてあげるようにしました。

でも、太郎くんは、全く嬉しそうではなかったし、むしろふてくされて、元気がなくなりました。


それもそうでしょう。彼が褒めてほしいところは、そこではないのですから。


太郎くんは、作ることが大好きなんです。

制作物を完成させることが一番の喜びで、その作品をみんなに、褒めてもらいたいのです。

私は以前のように嬉しそうな太郎君の笑顔をお受験が奪ってしまっているんじゃないかと

胸が痛かった。

でも、ここは合格するための教室。

高い授業料をお支払いいただいて、なんとか指示が聞けるようになるために、私たちの教室に来ているんだ。

合格するために必要なことを身につけさせてあげなくては。

と、自分に言い聞かせて、遠くから見守りました。


太郎君は頑張って、試験を受けることができました。

しかし合格は、いただけませんでした。


しばらくして、太郎くんとお母さまが教室に遊びに来てくれました。


お母さまは、涙をこらえて

「一生懸命取り組めたことが、この子のこれからの力になると思っています」

「結果は残念なものになりましたが、親子で精いっぱい頑張りました。ありがとうございました。」

と、おっしゃってくださいました。

申し訳ない気持ちでいっぱいになっていると、

太郎くんが

「先生にこれあげる!僕が作ったの!」と

空き箱で作ったかっこいい飛行機をベテラン先生に手渡しました。

ベテラン先生は

「どうもありがとう!本当にかっこいいね!先生とても嬉しい!教室のお友達にも見せてあげたいから、ここに飾ってもいいかしら?」

といって、太郎君をぎゅっと抱きしめて、

「これからは、作ることをいっぱい楽しんでいいからね。どんどん素敵なものを作ってくださいね!先生、楽しみにしてるからね!」

涙腺の緩い私は、その姿を見て涙を流してしまいました。


ベテラン先生も、本当はいっぱいいっぱい褒めてあげたかったんだ。

でも心を鬼にして、指導されてきたんだ。


太郎くん親子を見送った後も、心熱くなっている私にベテラン先生が言いました。

「合格できなかったのに、あんな風に言っていただけることなんて本当に稀なのよ。」

「合格できなくても得るものがあるなんて、講師のあなたは思ってはいけません。おこがましいから止めなさい。」


これがプロというものなのでしょう。


確かに、その通りです。自分が恥ずかしくなりました。

合格させるための仕事についているのだから、きれいごとで済ませてはいけないのです。

では、どうすれば、合格へ導いてあげられたのでしょうか。


私は今でもこの答えがわかりません。


実は、この太郎くんの話しには続きがあります。


公立の小学校に入った彼は、

中学校受験をして、開成中学校に合格し、

その後、東京大学に合格されました。


小学校が彼の能力を見抜けなかったということではありません。

学校が求めるタイプのお子さまではなかったのです。

小学校受験は、総合力が問われます。

協調性が重視されます。

大人の話をしっかりと聞き、行動できることが大切になります。


幼児教室では

志望校が求める子ども像にするために、指導しなくてはなりません。

太郎君のようにこだわりを強く持った個性的なお子さまは、とても苦しむことがあります。

私は時々、

小学校受験に向いていなくても、いいんです」

と言いたくなることがありました。


中学校、高校、大学、そして社会人へと進む過程で

個性は、とても大事なものになり、人生の輝きへと導いてくれます。


小学校受験を否定するつもりはありませんが、
いま一度、

お子さまに無理をさせていないか?

本当に大切なものは何か?

どうしても、小学校受験をしなくてはならないのか?

ということを考えてみてもよいのではないでしょうか。



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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。